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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)81号 判決

本店所在地

東京都渋谷区西原一丁目四九番八号

三晃商事株式会社

(代表者代表取締役 河野正)

本籍

東京都渋谷区西原一丁目四九番地

住居

東京都新宿区西落合一丁目二六番一六号

マンションサンコー二〇七号

会社役員

山崎こと

河野正

昭和一九年一一月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官土屋東一及び同上田廣一出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人三晃商事株式会社を罰金四五〇〇万円に、被告人河野正を懲役一年六月に、それぞれ処する。

被告人河野正に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三晃商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都渋谷区西原一丁目四九番八号に本店を置き、不動産売買並びにその媒介等を業(登記簿上の目的は、建設業、建設資材、機材及び附属機材の輸出入販売等)とする資本金一〇〇万円の株式会社であり、被告人河野正は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人河野は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三九五四万五五二五円(別紙1修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が三八五九万二一一三円であり、これらに対する法人税額が二二六九万六四〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)であったのにかかわらず、ほ脱の意図をもって、前記被告会社本店において売上帳等の正規の帳簿を作成せず、売買契約書を破棄し、また、東京都新宿区西新宿一丁目一八番八号所在東京相互銀行新宿西口支店において仮名の普通預金口座を開設して売上等の一部を預け入れるとともに、同都渋谷区富ケ谷一丁目五一番三号所在東京相互銀行代々木八幡支店において右普通預金通帳等を貸金庫に隠匿保管するなどしてその所得を秘匿したうえ、同五三年二月二八日の納期限までに同都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署の署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における前同額の法人税を免れ、

第二  昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五四六五万三六六二円(別紙2修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が七八〇一万九七〇一円であり、これらに対する法人税額が三六六二万五〇〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)であったのにかかわらず、ほ脱の意図をもつて、前記被告会社本店において売上帳等の正規の帳簿を作成せず、売買契約書を破棄し、また、前記東京相互銀行代々木八幡支店等において仮名の普通預金口座を開設し、あるいは仮名の定期預金として、売上等の一部を預け入れるとともに、同支店において右普通預金通帳等を貸金庫に隠匿保管するなどしてその所得を秘匿したうえ、同五四年二月二八日の納期限までに前記渋谷税務署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における前同額の法人税を免れ、

第三  昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二一〇七万七〇〇八円(別紙3修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が一億四二七八万五三二八円であり、これらに対する法人税額が七六一四万七八〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)であったのにかかわらず、ほ脱の意図をもって、前記被告会社本店において売上帳等の正規の帳簿を作成せず、売買契約書を破棄し、また、前記東京相互銀行代々木八幡支店等において売上等の一部を仮名の普通預金及び定期預金として預け入れるとともに、同支店等において右普通預金通帳等を仮名の貸金庫に隠匿保管するなどして所得を秘匿したうえ、同五五年二月二九日の納期限までに前記渋谷税務署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における前同額の法人税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人河野正の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書三通

一  山崎良次及び河野恵以子の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の預金、売上高、受取仲介手数料、受取紹介料、期首たな卸高、仕入高、たな卸商品、報酬及び給料、旅費交通費、通信費、燃料費、水道光熱費、交際接待費、寄付金、租税公課、支払保険料、修繕費、事務用品費、消耗品費、新聞図書費、賃借料、支払手数料、謝礼金、売上に対する支払仲介手数料、雑費、受取利息、支払利息、雑収入、雑損(車両売却損)、交際費限度超過額、寄付金限度超過額、事業税認定損、役員報酬過大並びに土地重課に関する調査書各一通

一  渋谷税務署長、杉並税務署長及び淀橋税務署長各作成の回答書

一  東京法務局渋谷出張所登記官作成の登記簿謄本

(法令の適用)

被告人河野の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。さらに、被告人河野の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金四五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、被告人河野が個人の名義で免許を受け、これをもって不動産売買等を営む被告会社において、それまでの業績不振から一転して急速に売上等が伸びたことにより、昭和五二ないし五四年度にかけて、実際所得金額が合計二億一五〇〇万円余りに達し、土地重課税の対象となる土地譲渡利益が合計二億六〇〇〇万円近くあったにもかかわらず、取引台帳等の正規の帳簿を作成せず、売上等を仮名の銀行預金に預け入れるなどして秘匿したうえ、いずれも法定の期限内に確定申告をしないで合計一億三五〇〇万円余りの法人税を免れたというものであり、こうした無申告の脱税は極めて異例なものといえる。被告人河野は、脱税の発覚を防ぐため、不動産日記帳に取引メモをつけるだけで、売上帳等の帳簿を作成しなかったばかりか、各種の所得秘匿行為を行なったうえ、法人経営者にとって最低のものともいえる申告義務をも果さなかったものであって、脱税の手段、方法において悪質であるほか、脱税の動機にも格別酌むべき点のないこと、脱税の額も高額であることなどをも併わせ考慮すると、その刑責は被告会社ともども重く、殊に被告人河野については、その責任が厳しく追及されなければならない。

しかしながら、本件は、漸く業績が好転した矢先に摘発を受ける羽目に陥ったもので、土地譲渡利益に対する課税が合計五〇〇〇万円余り含まれていて、そのため実際所得金額の割には被告会社に対する法人税額ひいては脱税額も高額になっているという事情が認められること、被告会社は、昭和五四年度の本税分七六〇〇万円余りをすでに納付し、その余の本税、重加算税等についても、不動産等を担保に提供したうえ納税猶予の許可を得てこれを実行する予定でいること、被告会社では、今後顧問税理士の指導を受けるなど経理体制を整えていること、被告人河野は、本件発覚後は素直に事実を認めるなど反省の態度がみられること、同被告人には交通違反による罰金刑以外の前科はないことなど、同被告人及び被告会社にとって有利な事情も認められるほか、被告人河野の健康状態(腰椎分離症等)や家族関係など本件にあらわれた全ての事情を考慮するならば、同被告人に対し刑の執行を猶予するのが相当である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

三晃商事株式会社

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

三晃商事株式会社

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

三晃商事株式会社

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

52 12

昭和53年12月期分

54 12

三晃商事株式会社

〈省略〉

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